火曜の夜10時、メッセージが届きます。「お湯が出ません」。ゲストは14時間のフライトを終えたばかりで、外は寒く、とにかくシャワーを浴びたい。こちらは都内の反対側にいて、水道業者はもう営業を終えている。ここからの対応が、5日後に届くレビューの中身をほぼ決めてしまいます。

こういう夜を何度も経験してきました。そのたびに思い知らされるのは、滞在中のクレームはたいてい「災難」ではなく「試験」だということです。そしてこの試験は、その夜のうちに問題を直せなくても合格できます。今の僕たちがどう対応しているかを書いてみます。

まとめ

  • 滞在中に届いたクレームは、まだ挽回できます。レビューで初めて知るクレームとはそこが違います。早めの警告として受け止めましょう。
  • 早く直すことより、早く具体的に返信することのほうが大事です。ゲストは壊れた設備には寛容でも、無視されることには厳しいものです。
  • どのクレームも「安全・入室」「快適性」「期待とのズレ」の3つのどれかに仕分けます。グループごとに対応が変わります。
  • 補償は滞在がどれだけ影響を受けたかで決め、ゲストに言われる前にこちらから申し出て、OTAのプラットフォーム上に記録を残します。
  • クレームはすべて一か所に記録します。同じクレームが2回来たら、運が悪かったのではなく仕組みの問題です。

なぜ滞在中のクレームは「良い知らせ」なのか?

滞在中に不満を伝えてくれるゲストは、レビューを書く前に挽回するチャンスをくれているからです。本当に怖いのは、何も言わずにチェックアウトして、星3つで「シャワーがぬるかった」と書くゲストのほうです。その時点では、もう打つ手がありません。

僕たちのゲストハウスのチャット記録では、ゲストからのメッセージの多くは、入室方法、道案内、荷物預かり、ハウスルール、Wi-Fiやエアコンなど設備の使い方といった、いくつかの決まったカテゴリーに収まります。本物のクレームはそれほど多くありません。だからこそ、届いたときには全力で対応する価値があります。頻繁には来ないけれど、来たときの損失が大きいのです。

最初の15分で何をすべきか?

最初の15分でやるべきことは、問題を受け止めたと伝える、確認の質問を1つだけする、次にいつ連絡するかを約束する、の3つです。この時点で解決策はいりません。担当者が動いていることを伝えるのが目的です。

うまくいく返信の例:

「ご連絡ありがとうございます。せっかくの初日なのに、本当に申し訳ありません。お手数ですが、玄関横のブレーカーで落ちているものがないか確認していただけますか?今からメンテナンス担当に電話して、10時半までに状況をお知らせします。」

うまくいかない返信は「確認いたします」の一言だけ、というものです。

前者がうまくいく理由は3つあります。まず、誰のせいかを議論せずに謝っていること。次に、ゲスト自身が試せることを伝えていること。日本のマンションで「給湯器が壊れた」という連絡は、実はブレーカーが落ちていたり、給湯リモコンの電源が切れていたりするだけ、ということがよくあります。そして、次の連絡時刻を具体的に約束していること。報告が「まだ業者を待っています」だったとしても、約束の時刻には必ず連絡しましょう。

クレームの種類によって対応をどう変えるべきか?

どのクレームも、次の3つのグループのどれかに仕分けます。グループごとに必要な対応が違うからです。

1. 安全・入室に関わるもの。 締め出し、ガス臭、水漏れ、鳴り止まない火災報知器、壊れた鍵など。これは何よりも優先します。少しでも安全に不安があるなら、費用の節約よりゲストの安全が先です。ゲストを避難させ、適切な緊急連絡先に連絡し、費用のことは後で考えます。ガス臭がある場合は、火気を使わず、照明・換気扇などのスイッチに触れず、屋内で安全なら窓を開け、可能なら機器栓・ガス栓・メーターガス栓を閉め、ガス臭い場所から離れ、地域のガス漏れ通報窓口に連絡するようゲストに伝えます。東京ガスネットワーク管内なら24時間受付の0570-002299、ナビダイヤルが使えない場合は03-6735-8899です。火災・けが・差し迫った危険があれば119番です。24時間対応の鍵業者の番号、地域のガス漏れ通報窓口、管理会社の連絡先は、必要になる前から、スマホですぐ見られる場所に控えておきましょう。

2. 快適性に関わるもの。 お湯が出ない、8月にエアコンが壊れた、Wi-Fiが繋がらない、隣がうるさいなど。急ぎではあっても危険ではありません。現実的な復旧の見込みを伝え、代わりの手段があれば提案します。お湯なら近くの銭湯、暑さなら扇風機、ネットならポケットWi-Fiといった具合です。

3. 期待とのズレ。 「写真より部屋が狭い」「駅から思ったより遠い」など。直すものがないので、必要なのはしっかり話を聞いて公平に判断することです。ゲストの言う通りでリスティングが誤解を招いているなら、リスティングを直します。そうでない場合もあります。どちらにしても落ち着いて、文面で言い訳がましくならないように気をつけます。

補償はいつ、どのくらい申し出るべきか?

補償は、問題で滞在が本当に損なわれたときに、影響を受けた範囲に見合った額を、ゲストに求められる前に申し出るのが基本です。

僕の目安はだいたいこんな感じです。一晩お湯が出なくて翌朝に直ったなら、お詫びとちょっとした心づけ。1月に2泊暖房が使えなかったなら、その2泊分の一部返金。部屋が使えないほどの問題なら、ゲストが別の宿を見つけるのを手伝い、残りの泊数分を返金します。

実務上のポイントが2つあります。

  • プラットフォームを通す。 OTAに返金・解決機能がある場合は個別送金ではなくその機能を使い、ない場合も各OTAの規約に従い、合意内容をプラットフォーム上のメッセージに残します。後でゲストが滞在内容に異議を唱えたり、事実と違うレビューを書いたりしたときに、記録が残っています。
  • 言われる前に申し出るほうがうまくいく。 「お湯の件で、今夜の宿泊分を返金させてください」と自分から申し出るのと、ゲストに何度も言われてから折れるのとでは、同じ金額でもゲストの受け止め方がまったく違います。

リスティングが正確だった「期待とのズレ」については、補償は必須ではありません。誠実で丁寧な説明だけで十分なことも多いです。

同じクレームを繰り返さないためには?

クレームを一件ずつ記録し、毎月パターンを見直すことで、同じクレームの繰り返しを防げます。僕たちは、日付・物件・カテゴリー・根本原因・対応内容・費用を書くだけのシンプルなリストを付けています。凝ったものは必要ありません。

パターンはすぐに見えてきます。「入口がわからない」という連絡が月に3回あれば、悪いのはゲストではなく到着案内のほうです。冬にお湯のクレームが2回あれば、給湯器の点検時期です。到着前のメッセージやハウスマニュアルの改善は、比較的低コストで始めやすい対策です。「クレーム」の多くは、実は情報が足りていないことが原因だからです。

このリストはメンテナンス予算にも使っています。業者に見積もりを取るとき、その修理が一回きりなのか、今年3回目なのかがわかれば、部分修理で済ませるか交換するかの判断が変わるからです。

自動化が役立つのはどこで、役立たないのはどこか?

自動化は定型的な質問への対応が得意で、そのぶん人が対応すべきクレームに時間を回せるようになります。僕たちのゲスト向けチャットボットは物件ごとの情報をもとに回答するので、Wi-Fiのパスワード、ゴミの分別、「エアコンのリモコンの使い方」といった質問には、何時でもすぐに答えられます。ゲストが苛立つ前に答えが届くので、クレームになりかけたものの多くはそもそも起きません。

一方で、クレーム、特に返金や予約変更が絡むものは人が対応すべきです。チャットボットは詳細を聞き取って緊急案件として知らせることはできますが、補償の交渉をしたり、怒っているゲストに「そう感じるべきではない」と伝えたりするべきではありません。僕たちの仕組みでは、ボットがクレームらしいメッセージを見分け、自分で処理しようとせず、すぐに人に引き継ぐようにしています。

よくある質問

Q: こちらに落ち度がなくても謝るべきですか?

はい。ただし、謝るのはゲストの体験に対してで、過失を認める必要はありません。「ご滞在中の夜にご不便をおかけして申し訳ありません」は誠実な言葉で、相手の気持ちも落ち着きます。建物全体の停電や隣人など、誰の責任かは別途、落ち着いて整理すれば大丈夫です。

Q: すでに解決した問題について低評価レビューが付いたら、返信すべきですか?

はい。短く、事実に沿って書きましょう。ゲストへのお礼、何が起きて何をしたか、その後に入れた改善策を書きます。将来のゲストはクレームと並んで返信も目にするので、何が起き、何を改善したかが伝わる内容にしましょう。

Q: 小さな問題なのに全額返金を求められたらどうすればいいですか?

まずゲストの不満を受け止め、影響の大きさに見合った補償内容を説明します。合意できなければ、プラットフォームの解決手続きを使いましょう。やり取りはすべてプラットフォーム上に文面で残し、外部の連絡手段に移らないようにします。


本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、法務・税務・会計上の助言ではありません。返金義務、プラットフォーム規約、ゲスト対応上の責任関係は、契約・OTA・自治体・個別事情により異なります。必要に応じて専門家にご相談ください。