実は、日本で会社を始めるつもりはなかった。BenStayはもともとサイドプロジェクトとして始まった——ゲストハウス1軒から2軒へ、気づけば数軒になって、スプレッドシートと深夜のWhatsAppメッセージで何とか回していた。いつの間にか合同会社になり、ある時点で「ああ、自分は日本でテック系の会社を経営しているんだ」と気づいた。しかも、ビジネスインフラのほとんどが、台所のテーブルで独学した言語で動いている国で。

開業から5年。本当に誰かに教えてほしかったことを、正直に書いておく。

まとめ

  • 合同会社の設立は意外に早くて安い——難しいのはその後
  • 言語の壁は、日常業務では思ったより低く、銀行と税務では思ったより高い
  • 日本のB2B関係は「信頼と積み重ね」で動く。飛び込み営業はほぼ機能しない
  • 自分たちが困った問題を解くためにツールを作ると、本物のプロダクトが生まれる(ReshitoもAimitsuもそこから始まった)
  • お役所仕事は確かに存在するが、大体が予測可能——それは実は長所でもある

なぜ日本でテック系スタートアップをやるのか?

日本は、ほとんどの起業家が最初に思い描く国ではないかもしれない。でも、日本市場向けに——ホスピタリティ、フリーランス、規制が多い業界でプロダクトを作ろうとしている——特定のタイプの創業者にとっては、実はかなり筋がいい選択肢だ。市場は大きく、英語ファーストのSaaSに対応していない顧客層がまだ広く残っていて、国内の競合は動きが遅い。空気を読めれば、そこに入り込む余地がある。

訪日インバウンドの急回復も追い風になっている。2024年の訪日外客数はコロナ前の水準を超え、それを支えるインフラ——予約ツール、コンプライアンスソフト、多言語対応の仕組み——はまだ需要に追いついていない。BenStayが活動しているのは、まさにそのギャップだ。そしてそのギャップは、当面は広がり続けると思っている。

セットアップが終われば、意外と楽なことは?

合同会社の実務は、想像より単純だ。法務省のオンライン申請システムを使えば、登録免許税6万円以下で会社を設立できる。法人口座さえ開ければ(その話は後で)、請求書の処理はきれいに流れるし、小規模LLCの税務申告の仕組みも把握しやすい。

業務面でも、日本のロジスティクスや業者エコシステムは本当に優秀だ。「この日に来ます」と言ったら来る。職人の技術も高い。一度関係を築けば、面倒なやり取りなしにことが進む。他の市場で物件管理をしていた経験から言うと、この部分は心底驚いた。

本当に手間取ることは何か?

3つある。重い順に書く。

銀行口座。 法人口座の開設には数週間、場合によっては数ヶ月かかる。しかも必要書類を誰も事前に教えてくれない。設立直後の会社だと断る銀行も多い——「6ヶ月以上の事業実績を見せてください」という話になる。私は3つの銀行を試して、ようやく1つ通った。初日から動き始めるべき手続きだ。

インボイス制度。 消費税の課税事業者として、フリーランサーや外注先と取引しているなら、2023年の制度改正で管理の手間がぐっと増えた。取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確認して、登録番号を収集して、古い請求書の区分も見直す必要がある。この作業が毎月積み重なる。Reshitoを作ったのはこれが直接の理由だ——自分たちの領収書をすべて手作業で処理していて、四半期ごとに何時間も消えていた。

信頼関係には時間がかかる。 日本のB2B関係は、繰り返しの接触で育つ。突然のメールや見知らぬ相手からのLinkedInメッセージが商談に発展することはほぼない。企業クライアントを獲得したいなら、いい条件で仕入れたいなら、優秀な外注先を確保したいなら——それは長期戦だと最初から覚悟しておいたほうがいい。ただし逆に言えば、一度築いた関係は驚くほど安定している。

日本語が完璧でなくても、どうやって業務を回すのか?

仕組みさえあれば、思っているよりうまく回せる。日常的な業者とのやり取りの多くは、構造化されたフォーマット——見積もり依頼、修繕リクエスト、請求書——で流れる。フォーマットが仕事の大半をしてくれる。

物件のメンテナンスで複数の業者から見積もりを取るときは、自分たちで作ったAimitsuを使っている。日本語の見積もり依頼文を生成して、複数社の比較を整理してくれるツールだ。バイリンガルのオペレーションマネージャーがいなくても、ちゃんと機能する形にした。

法律・税務は、バイリンガルの税理士が「インフラ」だと思っている。オプションじゃない。私たちの税理士は消費税の申告を処理し、民泊法令への対応を維持し、問題が表面化する前に教えてくれる。年間12万円前後のコストは、間違いなく一番コストパフォーマンスのいい支出だ。

今なら何を変えるか?

いちばんよかった選択——領収書管理のReshito、見積もり比較のAimitsu——はどちらも社内ツールとして始まった。市場調査からじゃなく、「自分たちが困っているから作った」という動機で。そのヒューリスティックはいまも変わっていない。自分で本物の課題として感じているなら、同じ課題を抱えている人は必ずいる。

もし今から始めるなら、税理士と銀行口座を6ヶ月後ではなく1ヶ月目に片付ける。日本語の業務ドキュメントに早めに投資する。そして「英語話者の外国人向け市場」から入ろうとする誘惑に抵抗する——それは楽な出発点だが、日本の本当の機会はそこにはない。


この記事はBenStay合同会社(東京)を経営する私自身の経験に基づいています。法的・税務・ビジネス上のアドバイスを意図するものではありません。具体的な状況については、資格を持つ専門家にご相談ください。

よくある質問

Q: 日本語が話せなくても日本で会社を経営できますか?

流暢さは必須ではありませんが、仕組みが必要です。日常業務の多くは、構造化されたフォーマットと翻訳ツールでカバーできます。日本語力が本当に重要になるのは「関係構築」の場面——税理士、銀行、主要クライアントとのやり取りです。そこは学習に投資するか、信頼できるバイリンガルのパートナーや顧問を早めに確保するか、どちらかを選ぶことになります。

Q: テック系の小規模スタートアップなら合同会社と株式会社のどちらが向いていますか?

合同会社は設立コストが低く(資本金の最低額なし、登録免許税も安い)、運営が簡単です。株式会社は社会的な知名度が高く、機関投資家からの資金調達に向いています。ブートストラップで日本でビジネスを始めるなら、合同会社がほぼ間違いなく正解のスタート地点です。詳しくは合同会社vs株式会社の比較記事でも解説しています。

Q: 会社登記から実際に事業が動き出すまで、どのくらいかかりますか?

会社登記自体は1〜2週間程度で完了します。ボトルネックはほぼ確実に法人口座の開設で、銀行と状況次第で1〜3ヶ月かかることがあります。登記から「フル稼働」まで3〜4ヶ月を見ておくのが現実的な見通しです。銀行の手続きは、できるだけ早く始めることを強くお勧めします。