住宅宿泊事業法(民泊新法)のもとで民泊を運営していると、新規オーナーの多くが最初に直面する壁があります。年間180日という営業上限です。これは1年のほぼ半分。しかも毎年1月1日にリセットされます。ゴールデンウィークや盆の時期に誤って閉鎖してしまったら、取り戻せないピーク収益を失うことになります。

この上限を「なんとか回避するもの」として扱っているオーナーをたくさん見てきました。うまくいっているケースは少ない。一方で、最初から収益戦略全体を180日という前提で設計しているオーナーは、結果的に安定して稼いでいます。

まとめ

  • 住宅宿泊事業法により、民泊届出物件は年間180日を超えて宿泊者を受け入れることができない
  • 上限は「オーナーごと」ではなく「物件ごと」に適用される。3物件あれば、それぞれが180日を持つ
  • 自治体によっては国の基準より厳しい上乗せ規制がある(例:京都の住居専用地域)
  • 収益を最大化するには、180日を「埋める」のではなく「高く売る」設計が必要
  • 180日では事業が成立しないと判断した場合、簡易宿所や旅館業許可を取得することで上限なしに営業できる

180日ルールとは何か

民泊新法は2018年6月に施行された法律で、それまで法的グレーゾーンで運営されていた住宅の短期貸し出しに合法的な枠組みを与えました。都道府県への届出を行うことで「住宅宿泊事業者」として正式に民泊を運営できるようになりましたが、年間の営業日数は180日以内に制限されています。

「日数」の数え方は、宿泊者が実際に滞在した夜の数です。7泊の予約が入れば7日分を消費します。カレンダーを開放しているだけでは消費されません。あくまで「実際に泊まった夜数」のカウントです。

ここで意外と誤解が多いのですが、上限の管理はプラットフォーム(Airbnbなど)が自動でやってくれるわけではありません。自分で追跡する必要があります。

自治体の上乗せ規制に注意

国の法律は180日を「上限」として定めていますが、自治体はそれより厳しい規制を設けることができます。

最も制限が厳しいのが京都市です。住居専用地域では、営業できる期間が特定の時期に限定されており、実質的な営業可能日数は60〜90日程度になることもあります。収益シミュレーションを組む前に、必ず京都市のウェブサイトで対象物件の用途地域を確認してください。国の180日が適用されると思い込んでいると、大きく計算が狂います。

東京の各区は対応が様々です。中心部の商業地域では国の規制のみが適用されることが多い一方、マンションの管理規約による制限(民泊禁止の管理組合規定)は法律とは別の問題として存在します。大阪はある程度整理されましたが、区ごとの細則は今も存在します。

結論:自分の物件が所在する自治体の規制を個別に確認することが必須です。180日は「最大値」であり、保証された数字ではありません。

なぜ上限があると価格戦略が重要になるのか

通常のホテルには365日を売る機会があります。稼働率70%・ADR1万5000円であれば年間収益は計算できます。では、売れる夜数が半分になったらどうでしょう。同じ収益を達成するには、ADRを大幅に上げるか、開業期間中の稼働率を限りなく100%に近づけるか、あるいは両方が必要です。

これが、優秀な民泊オーナーが「空いている夜」を真剣にマネジメントする理由です。

どの夜に価値があるか

日本の宿泊需要は季節パターンが非常に明確です。180日という制約がある中で、以下の期間は必ず押さえておきたい:

  • ゴールデンウィーク(4月下旬〜5月上旬):国内外の旅行者でほぼ満室になる約10日間
  • お盆(8月中旬):国内需要が急増する7〜10日間。家族連れが中心
  • 年末年始(12月28日〜1月3日):高い需要が安定して見込める時期
  • 桜シーズン(3月下旬〜4月上旬、地域・年によって変動):インバウンド需要が集中する2〜3週間
  • シルバーウィーク(9月、飛び石連休になる年):年によって差があるが無視できない

これらだけで40〜50日を使います。重要な夜を安い1泊予約で消費しないように計画を立てることが肝心です。

最低泊数を設定すべきか

上限がある状況では、1泊予約のコストは高い。その夜を1夜消費し、清掃・チェックインの手間を払って、得られるのは1泊分の収益だけです。最低3泊を設定すれば、同じコストで3倍の収益が生まれます。

BenStayでは、複数の物件でピーク時の最低2泊、ゴールデンウィーク・年末年始は最低3泊に変更しました。清掃回数とチェックイン対応が減り、運営コストは即座に下がりました。ADRは維持できています。桜シーズンに京都や東京に来たいゲストは、最低3泊という条件で予約をやめることはほとんどありません。需要が強い時期は価格も条件も強気でいい。

簡易宿所・旅館業許可という選択肢

180日ではどうしても事業が成り立たないと判断した場合、旅館業法への切り替えという選択肢があります。簡易宿所営業または旅館・ホテル営業の許可を取得すれば、日数制限はなくなります。ただし、要件は大きく異なります:

  • 施設基準:宿泊者一人当たりの床面積などの基準を満たす必要がある
  • 防火設備:規模に応じて非常口・警報器・消火器等の設置義務
  • フロント対応:宿泊中に問い合わせに応じられる体制の確保
  • 用途地域:住居専用地域では許可が下りない場合がある

住宅を副業的に貸し出す「民泊」ではなく、最初から宿泊施設として設計・運用している物件であれば、簡易宿所への移行を検討する価値があります。BenStayでも複数の物件でこの比較を行いました。どちらが有利かは物件の需要見込みと用途地域によって異なるため、個別に試算することをお勧めします。

残り日数の管理方法

プラットフォームが自動管理してくれると思いがちですが、Airbnbはカレンダーの状況を表示するものの、年間の宿泊日数累計や上限への接近をアラートしてくれるわけではありません。

実用的な対策は、物件ごとに年間消化日数を記録するシートを作ること。週次で更新し、120日・150日・170日に達したらアラートを設定しておくことで、上限超過を防げます。

180日を超えての営業は住宅宿泊事業法違反になります。都道府県は実態調査を行っており、違反が確認された場合は是正指導・罰則・届出番号の取り消しといった処分につながることがあります。取り消しになれば、再開には新規届出が必要です。

収益の実際

年間200万円を1物件で達成したいとしましょう。

180日の上限で稼働率80%(実際の宿泊夜数144泊)を前提にすると、必要なADRは約1万3,900円です。東京中心部や京都の観光エリアであれば、写真・レビュー・立地条件が整っていれば十分届く数字です。地方都市や住宅街になると、最低泊数の設定や空き夜数の削減(高稼働ウィンドウへの集中)といった工夫が必要になります。

逆説的ですが、180日という制約があることで、民泊オーナーは価格規律が身につきやすい。量で補えない分、価格を正確に設定する必要があるからです。

よくある質問

Q:180日のカウントは毎年リセットされますか?

はい、毎年1月1日にリセットされます。使いきれなかった日数を翌年に繰り越すことも、翌年の日数を前借りすることもできません。各年度は独立した180日の枠として扱われます。

Q:うっかり180日を超えてしまったらどうなりますか?

住宅宿泊事業法違反となります。行政指導・罰則・届出番号の取り消しなどの処分を受ける可能性があります。年末に上限に近づいていることに気づいたら、即座にカレンダーをブロックし、新年までは新規予約を受け付けないことが賢明です。

Q:同じ物件に民泊届出と簡易宿所許可を両方持つことはできますか?

できません。一つの物件はどちらか一方の法律の下で運営されます。簡易宿所の許可を取得した場合、その物件の民泊届出は取り下げる必要があります。両方を同時に保持することは法的に矛盾しており、行政上の問題が生じます。


本記事は情報提供を目的としており、法的・税務的なアドバイスを構成するものではありません。民泊に関する規制は国・都道府県・市区町村の各レベルに存在し、内容は随時変更されることがあります。具体的な運営状況については、専門の行政書士・弁護士または所管の都道府県窓口にご相談ください。