JNTOの訪日客統計を見るたびに、「数字は好調なのに、うちの予約カレンダーはなぜこんなに空いているのか」と感じたことはないだろうか。東京・大阪・京都の三角地帯の外で宿を運営しているなら、この感覚は身に覚えがあるはずだ。

ただ、その状況は変わりつつある。そして今、正しい「第二の都市」に拠点を持つ運営者にとっては、追い風が吹き始めている。

まとめ

  • 訪日外国人は従来の「ゴールデンルート(東京→富士山→京都→大阪)」を超えて、地方へ急速に分散している
  • 福岡・金沢・広島・北海道の一部では、宿泊者数の伸び率が全国平均を上回っている
  • 分散の背景には「リピーター増加」「主要都市のオーバーツーリズム疲れ」「SNSによる新たな発見」がある
  • 地方市場は東京とは異なるロジックで動く:異なる送客国、異なる繁忙期、薄い競合環境
  • 地方で成功している運営者は、東京のノウハウをそのまま移植せず、自分の市場を理解したうえで戦略を立てている

訪日客がゴールデンルートを離れ始めた理由

ゴールデンルート(東京→富士山→京都→大阪)は長年、日本のインバウンド観光を支配してきた。数の上ではいまも変わらない。しかし、構造的な変化が起きている。

日本を複数回訪れているリピーター旅行者に聞いてみると、答えは共通している。「繁忙期の京都は疲れる」「新宿は美しいが圧倒される」「本物の日本を体験したい」。

このような声が、SNSを通じて増幅されている。金沢・東茶屋街の秋景色を映した短尺動画ひとつ、あるいは福岡・中洲の屋台の映像が拡散されると、検索が増え、実際の予約につながる。JNTOの都道府県別データもこの傾向を裏付けている。東京・大阪が宿泊者数の絶対値では依然トップだが、石川・福岡・広島などの宿泊者数の伸び率は全国平均を継続的に上回っている。訪日客は確かにそこに来ている。ただ、ニュースの見出しにはなっていないだけだ。

特に変化が大きい地域はどこか

福岡:アジアで最もアクセスしやすい都市

福岡については別記事が必要なほどのポテンシャルがある。ソウルから飛行機で約2時間、韓国・中国からはフェリーでもアクセスでき、長崎・別府・鹿児島を含む九州観光の起点でもある。豚骨ラーメン・明太子・中洲の屋台といった食文化だけで、リピーターを生む力がある。

運営者視点で見ると、福岡は韓国や東南アジアからの訪日客の比率が際立って高い。滞在期間は短め(2〜3泊)で、週末の価格プレミアムは十分に取れる。もし福岡で物件を運営していて、OTAのリスティングが韓国語・中国語の検索に最適化されていないなら、確実に取りこぼしが発生している。

金沢と北陸コリドール

2024年3月に開業した北陸新幹線(金沢〜敦賀・福井延伸)は、この地域の観光に明確な変化をもたらした。金沢の工芸・文化的なアイデンティティ(兼六園・21世紀美術館・東茶屋街)は、「本物の日本」を求めながら京都の混雑を避けたい欧米系旅行者に特に刺さる。

宿泊期間は長め(2〜4泊)で、状態の良い伝統的なスタイルの物件は強気の価格設定が可能だ。ただし、この市場はレビューへの感度が高い。欧米系ゲストは特に、ホスト対応の速さとリスティングの正確さに敏感で、それが評価にストレートに反映される。東京の高ボリューム市場より、一件のレビューが大きく効く。

広島と瀬戸内海

広島・宮島の定番ルートには以前から集客力があったが、瀬戸内海エリア全体が多泊型の目的地として認知されつつある。直島をはじめとするアートの島々や瀬戸内国際芸術祭は、「アジア周遊」ではなく「日本専用の旅」として訪れる、文化的関心の高い旅行者を呼び込む。この旅行者像を理解し、リスティングのトーンや写真に反映させることが、この地域の運営者には重要だ。

地方物件のリスティング戦略:東京の常識を疑え

ここで一度立ち止まって考えたいのが、「東京で通用したノウハウをそのまま地方に移植できるか」という問いだ。答えは多くの場合、ノーだ。

送客元の市場が違う。 福岡の物件と新宿の物件では、需要の源泉が根本的に異なる。韓国・東南アジアからの旅行者の割合がはるかに高い。これはOTAタイトルの言語設定、アメニティの選択(空港アクセス、韓国語の地元グルメマップなど)、そして価格カレンダーに影響する。韓国のゴールデンウィークや秋夕(チュソク)は、福岡の稼働率に直結するイベントだ。

レビューの重みが違う。 競合物件が少ない市場では、少数の最新好評レビューがOTA内の検索順位を大きく動かす。東京では一件のレビューが与えるインパクトはほぼ誤差の範囲だが、金沢や広島では欧米ゲストからの丁寧な5つ星レビュー一件が、順位を明確に押し上げることがある。

競合が少ない分、価格に自信を持てる。 競合が少ないことは、値下げ競争を避けやすいことを意味する。一方でベンチマークも少ないため、AirDNAや各OTAのマーケットデータを積極的に活用する必要がある。

繁忙期のパターンが独自だ。 全国的な観光ピークがそのまま当てはまるとは限らない。福岡は韓国の祝日と連動し、北海道の冬は雪山エリアに集中し、金沢の紅葉シーズンは強烈だが短い。自分の市場の固有パターンを把握しておくことが出発点だ。

供給不足という「機会」

正直に書いておく。多くの地方市場では、質の高い短期賃貸物件の絶対数がまだ少ない。民泊規制は全国一律に適用されるし、ノウハウの多くは依然として大都市に集中している。

これは、手間をかけられる運営者にとっての機会だ。金沢で適切に整備・撮影・管理された物件は、薄い競合環境の中で戦うことになる。需要は実在する。供給が追いついていない。

BenStayは現在東京以外に物件を持っていないが、地方市場は注意深く見ている。この分野でうまくいっている運営者の共通点は、「混雑から離れた、本物の日本」というストーリーを売っていることと、少ない競合の中でも自信を持って価格を維持していることだ。

よくある質問

Q: JNTOの都道府県別統計はどこで入手できますか?

JNTO(日本政府観光局)の統計ポータル(statistics.jnto.go.jp)で毎月公表されています。月次プレスリリースは全国の入国者数が中心ですが、都道府県別宿泊者数のデータは詳細補足資料に収録されています。都道府県別データは通常、主要発表より1ヶ月程度遅れて公表されます。

Q: 地方物件の価格設定は東京と変えるべきですか?

多くの場合、変えるべきです。競合が少ない地方市場では、完全自動化の価格ツールは精度が落ちることがあります。地方物件はむしろ「ベース価格+イベント・紅葉・祭りなどに合わせた手動プレミアム」という半自動のアプローチが機能しやすい傾向があります。繁忙期に値引きして稼働率を埋めるより、強気の価格で待つほうが結果的に収益が高くなることも多いです。

Q: 北陸新幹線の延伸(2024年)は金沢の需要にどう影響しましたか?

敦賀・福井方面への延伸により、東京側からも関西側からも所要時間が短縮されました。金沢の運営者にとっての実際的な効果は、「日帰りでは無理だが一泊なら」と感じていた東京在住者が宿泊に踏み切りやすくなったこと。週末需要はもともと堅調でしたが、延伸によって平日の宿泊需要が底上げされています。


本記事は情報提供のみを目的としており、法律・税務上のアドバイスを構成するものではありません。具体的な状況については、資格を持つ専門家にご相談ください。