訪日外国人は宿泊費にいくら使っているか?民泊・ゲストハウス運営者のための客単価ベンチマーク
目次
Airbnbで近隣物件の料金をチェックして「このくらいかな」と設定している運営者は多いと思う。手軽で合理的に見えるが、よく考えると「競合が何を根拠に設定したかわからない価格」を基準にしているということだ。
実はJNTOが毎四半期、訪日外国人の消費実態を細かく調査した無料データを公開している。宿泊業界ではほとんど活用されていないが、価格設定の根拠として使えるデータが詰まっている。
まとめ
- JNTOの「訪日外国人消費動向調査」では、国籍別・費目別の消費額を無料で確認できる。
- 宿泊費は旅行全体の支出のおよそ28〜33%を占める傾向がある。
- 欧米・オーストラリアからの訪日客は、韓国・中国などの近距離市場と比べて1泊あたりの宿泊費が大幅に高い。
- OTAの競合比較だけを基準にすると、ゲストが実際に払える金額より低く設定してしまうリスクがある。
- 自分の物件のゲスト国籍と支出傾向を把握するだけで、値上げの余地が見えてくることがある。
JNTOの消費動向調査とは何か?
JNTOは毎四半期、主要空港で帰国する訪日外国人にアンケートを実施し、旅行中の消費実態を調査している。結果は「訪日外国人消費動向調査」として公表されており、費目別(宿泊・飲食・買い物・交通・娯楽)かつ国籍別に分けて掲載されている。
statistics.jnto.go.jpで無料公開されているため、有料ツールは不要だ。
宿泊事業者にとって使えるのは、全体の数字(「インバウンド消費がX兆円」)よりも、旅行1件あたり・費目別・国籍別の内訳だ。価格設定のヒントはここに潜んでいる。
国籍によって宿泊費はどれだけ違うか?
結論から言えば、欧米などの長距離市場からの訪日客は、韓国・中国などの近距離市場と比べて宿泊費が大きく異なる。金額でも、旅行全体に占める割合でも。
直近のJNTOデータをもとにした概算(最新の季刊レポートを直接確認することを推奨する):
宿泊費が高い市場: 米国、英国、フランス、ドイツ、オーストラリア、カナダからの訪日客は、1泊あたり1万5,000円〜2万5,000円以上を宿泊費として使うケースが多い。一人旅やカップルが多く、1予約あたりの単価が上がりやすい構造にある。
中間層: 台湾、香港、シンガポールからの訪日客はその中間に位置する。カップルや家族連れが多く、欧米ほどではないが近距離のグループツアーよりは支出が大きい。
量は多いが単価は低め: 韓国は訪日外国人数でトップクラスを維持し続けているが、滞在が3〜5泊と短く、1泊あたりの宿泊費は低めになる傾向がある。中国のグループツアーは消費が買い物に集中し、宿泊費の比率は相対的に低い。
これはボリューム市場を軽視していいという意味ではない。ただ、自分の物件が欧米長距離ゲスト向けに設計・訴求されているなら、価格の底が低すぎる可能性がある。
どうやって価格設定に活かすか
まず、自分の物件に実際に泊まっているゲストの国籍を把握するところから始めよう。OTAのダッシュボードには国籍データが含まれていることが多い。直近3〜6ヶ月の予約を振り返り、上位3市場を特定する。
次にJNTOデータと照らし合わせる:
- 主要出身市場の旅行全体の平均消費額はいくらか?
- そのうち宿泊費の割合は?
- 平均滞在日数で割ると、1泊あたりの宿泊費はどのくらいになるか?
- 自分の現在のADR(平均客室単価)と比べてどれだけの差があるか?
たとえば「自分の物件に泊まるオーストラリア人ゲストは、全国平均で1泊1万8,000円を宿泊費に使っている」とデータが示しているとする。それなのに自分の料金が9,000円なら、少なくとも価格テストの余地は十分にある。
OTAの競合比較が誤解を生む理由
OTAの競合物件リストはリアルな数字に見えるから説得力がある。でも実際には「競合他社が何を根拠にしたかわからない価格」を横並びで眺めているだけだ。結果として業界全体が「実態より低い価格帯」に収束してしまうことがある。
東京中心部で欧州からの訪日客を受け入れているのに、「近隣がみんな7,000円だから」という理由で7,000円に設定しているケースを実際に見てきた。欧州から10泊旅行で来た場合、旅行全体の支出が20万円を超えることは珍しくない。仮に宿泊費が全体の30%なら6万〜7万円。7,000円/泊は、そのゲストにとってほぼ最安値圏だ。
値上げが正解とは限らない。ただ「上げる余地がある」という事実は知っておく価値がある。
物件の投資判断にも使える
物件の購入や開発を検討しているなら、このデータはさらに重要になる。欧米長距離ゲストを多く引き付けられる立地(主要観光地周辺や国際旅行者に人気のエリア)と、国内旅行者中心の地域では、ADRの上限が根本的に違う。
私たちがホテル投資ROI計算ツールを作ったのも、「稼働率だけ見て利回りを試算している」運営者や投資家が多かったからだ。想定ゲスト層が変わればADRの前提が変わり、収益予測も大きく変わってくる。
データから読み取れるその他のこと
消費動向調査には、訪問目的(観光・ビジネス・知人訪問など)別のデータも含まれている。欧米からの出張者は宿泊費を自己負担しないケースが多く、宿泊予算が高い傾向にある。交通アクセスが良く、デスクや安定したWi-Fiが整っている物件なら、このデータを根拠に強気の価格設定を検討できる。
また、2020年以降の回復過程でインバウンドの市場構成は大きく変わった。コロナ前に主力だった市場が戻り切っていない一方、急伸した市場もある。2023〜2025年のデータを使う方が、現在の需要構造をより正確に反映できる。
自分のゲストが実際にどれだけ支出しているかは、無料の政府データで確認できる。現在の価格設定がその実態を反映しているか確かめるだけでも、30分の時間をかける価値はある。
本記事は情報提供を目的としており、投資・経営上の意思決定に関する専門的なアドバイスではありません。価格設定や投資判断については、それぞれの物件・立地・市場環境を踏まえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
よくある質問
Q: JNTOの消費動向調査はどこで見られますか?
statistics.jnto.go.jpの「訪日外国人消費動向調査」から、四半期ごとのレポートを無料でダウンロードできます。英語サマリーと日本語の詳細版の両方が公開されており、通常は各四半期終了から約6週間後に公表されます。
Q: 宿泊費の支出は国籍だけでなく、季節によっても変わりますか?
はい、季節によっても変動します。欧米長距離ゲストはゴールデンウィーク・夏休み・桜シーズンに集中する傾向があり、閑散期はアジア近距離市場の割合が高まります。市場別の季節性も意識した上で、年間を通じた柔軟な価格設定を検討することが重要です。
Q: 小規模運営者でもこういったデータ分析をやる意味はありますか?
精緻な分析でなくても十分です。自分の主要ゲスト出身国のトップ2〜3を特定し、JNTOデータでその市場の宿泊費水準を確認する。現在のADRと比べて差があれば、現在の料金より15〜20%高い設定で30日間テストしてみる。それだけでも収益改善のヒントが得られます。データアナリストになる必要はなく、今の前提を一つ問い直すだけで十分です。
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