「民泊の届出は出した。あとは運営するだけ」と思っていたら、「この地域は条例で週末しか営業できません」と言われた——そんな話を、物件購入後に初めて知るオーナーから何度か聞いたことがあります。

用途地域(都市計画法に基づく土地利用の分類)は、民泊運営において「どのライセンスが取れるか」「年間何泊まで合法か」を左右する、最初に確認すべき要素です。ところが、この確認が後回しになることが実に多い。

まとめ

  • 日本の用途地域は全13種類。物件の地域区分によって、取れるライセンスの種類と営業可能日数が実質的に決まる。
  • 第一種・第二種低層住居専用地域では、自治体が民泊を「非労働日(週末・祝日)のみ」に制限できる。年間180泊ではなく60〜80泊程度が実態になる。
  • 商業地域・近隣商業地域は最も制限が少なく、簡易宿所の許可も取りやすい。
  • 工業専用地域では旅館業法上の許可がほぼ得られず、事実上の運営不可。
  • 国の法令は「最低ライン」。都道府県・市区町村の条例でさらに厳しくなることがある。

用途地域とは何か、なぜ民泊に関係するのか

用途地域は都市計画法に基づき、市街化区域内のすべての土地に指定される土地利用の区分です。全国一律で13種類あり、その地域で何を建てられるか、どんな事業を営めるかを規定します。

短期宿泊運営(民泊・簡易宿所)にとって、用途地域は2つの意味で重要です。第一に、どのライセンス(民泊届出か旅館業法の許可か)が取れるかに影響します。第二に、年間何日運営できるかを実質的に制約します。

13種類の用途地域と民泊への影響は?

大きく「住居系」「商業系」「工業系」に分かれます。それぞれのSTR(短期賃貸)への影響を整理します。

最も制限が厳しい住居系ゾーン:

  • 第一種低層住居専用地域:戸建て・低層マンション向けのエリア。住宅宿泊事業法(民泊法)上は届出が可能ですが、自治体が条例で「週末・祝日のみ」に営業を制限できます。この制限が適用されると、年間の営業可能日数は60〜80日程度になります。

  • 第二種低層住居専用地域:小規模な店舗が認められますが、住居用の性格は強く守られます。同様の条例制限リスクがあります。

中高層・準住居ゾーン:

  • 第一種・第二種中高層住居専用地域:中高層マンションが建てられるエリア。民泊は年間180泊の上限まで可能。低層住居系よりも簡易宿所の許可が取りやすい傾向があります。

  • 第一種・第二種住居地域:より混在した用途のエリア。民泊・簡易宿所ともに取りやすく、週末制限の条例は比較的少ない。

  • 準住居地域:幹線道路沿いの複合ゾーン。STRの自由度が高く、商業地域に近い条件で運営できます。

商業ゾーン(最も柔軟):

  • 近隣商業地域・商業地域:民泊への追加日数制限なし。簡易宿所・旅館の許可も取りやすい。都市部のゲストハウスや民泊専用物件は、このゾーンに集中していることが多いです。

工業ゾーン:

  • 準工業地域・工業地域・工業専用地域:旅館業法上の許可が原則認められません。工業専用地域での宿泊事業は、実質的に不可能です。

自分の物件の用途地域を調べるには?

各市区町村が公開している「都市計画図」で確認できます。東京都は都市整備局のウェブサービスで住所から用途地域を検索できます。大阪市・京都市も同様のツールを提供しています。

物件を購入する際は、不動産会社が作成する「重要事項説明書」に用途地域が法定記載事項として含まれています。すでに運営中の方も、管轄の区市町村の都市計画図で改めて確認しておくことをおすすめします。

自治体がさらに制限を加えることがある

国の法律はあくまで「最低ライン」です。都道府県・市区町村の条例でさらに厳しくなる場合があります。

東京:東京23区は各区ごとに対応が異なります。住宅専用地域の民泊を「週末・祝日のみ」に制限している区もあれば、より広い範囲に規制を適用している区もあります。区の条例が国の法律より優先されます。

京都:京都市は用途地域ルールに加え、市独自の規制を設けています。一部の住居系エリアや寺社・学校周辺では、民泊の届出自体を特定期間に禁止したり、追加の通知義務を課したりしています。

大阪:大阪市は国家戦略特区の指定(2015〜2018年)を受けていた関係で、一部エリアで簡易宿所の許可が取りやすい状況が続いています。

教訓:国の法律が許可していても、地域の条例で制限されているケースがあります。区役所・市役所への確認は運営前の必須ステップです。

簡易宿所の許可は用途地域によってどう変わるか

「民泊の180泊制限を回避したい」と思い、旅館業法の簡易宿所許可を検討するオーナーも少なくありません。しかし注意が必要です。第一種低層住居専用地域などでは、管轄の保健所が許可申請を実質的に認めないケースが多い。法律上の明示的な禁止ではなく、「地域の性格にそぐわない」として却下される実務慣行があります。

商業地域や準住居地域であれば、簡易宿所の許可取得はずっとスムーズです。「旅館業許可で年間180泊超を目指す」という戦略を持っているなら、物件探しの段階で用途地域の確認が欠かせません。

STR物件を購入する前のチェックリスト

新しい物件を検討するとき(弊社でも invest.benstay.jp で投資試算ツールを提供しています)、用途地域は最初に確認するフィルタのひとつです。第一種低層住居専用地域で週末制限がかかっていれば、年間の稼働可能日は60〜80日。東京の平均ADRで計算すると、RevPARは「理論上の180日」ベースの半分以下になります。これは投資判断を根底から変える数字です。

購入前の確認手順:

  1. 都市計画図で用途地域を確認する
  2. 区市町村が民泊に条例制限を設けているか確認する
  3. 簡易宿所の許可が取れる地域か、管轄保健所に問い合わせる
  4. 実際の営業可能日数(180日ではなく実態ベース)で投資試算を行う

よくある質問

Q: 住居専用地域でも民泊はできますか?

住宅宿泊事業法(民泊法)上は、住居専用地域でも民泊の届出は可能です。ただし、第一種・第二種低層住居専用地域では、自治体の条例によって「非労働日(週末・祝日)のみ」に制限できます。この制限が適用されると、年間の営業可能日数は60〜80日程度になります。旅館業法の簡易宿所許可は、こうした地域では保健所に却下されるケースが多いです。

Q: 用途地域はどこで確認できますか?

各市区町村の都市計画図(多くはウェブサイトで公開)で確認できます。東京都は都市整備局の地図サービスで住所検索が可能です。物件購入時は、不動産会社の重要事項説明書への記載が義務付けられています。すでに運営中の物件については、区役所・市役所の窓口またはウェブ上の都市計画図で確認してください。

Q: 無許可や条例違反で運営するとどうなりますか?

行政からの営業停止命令、罰則(罰金)、届出・許可の取消しといったリスクがあります。旅館業法違反は刑事罰の対象になる場合もあります。不明な点は、管轄の区役所・市役所または行政書士に事前に確認することを強くおすすめします。


本記事は情報提供を目的としたものであり、法的・税務的アドバイスを構成するものではありません。用途地域の規制や自治体の条例は改正されることがあります。具体的な物件については、行政書士または法律の専門家にご相談ください。