日本の小規模ホテルやゲストハウスの物件情報を見ていると、必ず同じ数字がトップに出てきます。表面利回りです。年間収益を物件価格で割っただけの数字が、まるで全てを物語るかのように提示されています。でも実際はそうではありません。以前に日本で物件を購入したことがある人ならすでにご存知でしょう。でも初めての投資を検討している人にとって、この見出しの数字と実際に手元に残る金額とのギャップこそが、多くの買い手がつまずくポイントです。

まとめ

  • 表面利回り(収益÷価格)は運営コストを無視しています。私たちの試算では、管理体制や清掃、光熱費、OTAの構成、修繕積立などによって、債務返済前の運営コストは収益の30〜50%程度になることが多いという前提を置いています。
  • 実質利回り(NOI÷諸費用・税金・家具設置費用を含めた総取得コスト)こそが、案件同士を比較できる本当の数字です。
  • 小規模物件の試算では、稼働率が10ポイント変動すると、購入価格10%の差よりリターンへの影響が大きくなる場合があります。
  • これは自分でスプレッドシートを組んで検証できます。含めるべき費目は、OTA手数料、清掃費、光熱費、消耗品費、消防法令対応費用、管理委託費、固定資産税、そして修繕積立分です。
  • 私たちが無料の計算ツール Japan Invest を作ったのは、検討する物件ごとに毎回同じスプレッドシートを作り直していたからです。

表面利回りは何を隠しているのか?

表面利回りが隠しているのは、ゲストの支払いから自分の口座に着金するまでの間に起きる全てのことです。単に収益を購入価格で割っただけの数字なので、実際に運営するのにいくらかかるかは一切反映されていません。私たちの試算では、管理体制や清掃、光熱費、OTAの構成、修繕積立などによって、債務返済前の運営コストは収益の30〜50%程度になることが多いという前提を置いています。内訳は、あらゆるOTAの予約ごとの手数料、ターンオーバーごとの清掃費、稼働率に応じて変動する光熱費、消耗品(アメニティ、リネン、コーヒーなど)、消防法令対応コスト、自分で運営しない場合の管理委託費、固定資産税など。これとは別に、数年後には必ず発生する修繕のための積立分も見込んでおく必要があります。

これらはどれも見出しの数字には表れません。表面利回りはこうしたコストを一切考慮する前の計算だからです。比較可能な数字は実質利回りです。実質利回り=NOIを総取得コスト(購入価格だけでなく、諸費用・税金・運営を始めるために投じた家具設置費用も含む)で割ったものです。NOIはOTA手数料、清掃費、光熱費、消耗品、管理委託費、固定資産税といった運営コストを差し引いたもので、修繕・大規模改修の積立分はNOIには含めず、別のキャッシュフロー項目として試算します。同じ表面利回り8%を謳う2つの物件情報でも、実際にどう運営されているかによって実質利回りは大きく異なることがあります。

稼働率は本当にどれほどリターンに影響するのか?

稼働率の想定は、多くの人が思っている以上にリターンに影響することがあります。小規模物件の試算では、時間をかけて交渉した価格の値引きよりも大きな影響になる場合も少なくありません。稼働率75%と65%で試算した物件は、単なる誤差の範囲ではありません。私たちの試算では、希望価格から10%値引くよりも実際のリターンへの影響の方が大きくなるケースが多く見られます。これが重要なのは、稼働率こそが売り手や仲介業者が最も楽観的に提示しがちな数字だからです。好調だった月やピークシーズンをあたかも年間平均であるかのように使うケースがよくあります。

自分でこの分析を行うなら、有効なのは簡単な感応度分析です。単一の想定稼働率ではなく、複数の稼働率水準(例えば55%、65%、75%、85%)それぞれで実質利回りを試算してみましょう。もし楽観的な水準でしかその案件が成立しないなら、契約前にそれを知っておく価値があります。最初の閑散期を迎えてから気づくのでは遅すぎます。

これを行うのにツールは必須ではありません。上記の費目を含めたスプレッドシートを、複数の稼働率シナリオで試算すれば、かなりのところまで到達できます。これは日本でのホスピタリティ物件を検討する誰にとっても正しい最初のステップであり、私たちのツールを使うかどうかとは関係ありません。

Japan Invest は実際に何を計算するのか?

Japan Invest は、表面利回りと実質利回りを比較モデル化し、稼働率がリターンにどれだけ影響するかを試算できる無料の計算ツールです。検討する物件ごとに同じスプレッドシート作業を繰り返していたことから作りました。他にも同じように日本のホスピタリティ物件を手作業で検証している人がいるのではと考えたのです。invest.benstay.jp で公開しています。

やっていることは上で説明したギャップと同じです。物件情報にある数字を入力すると、見出しの表面利回りと、物件情報には載っていない運営コストを織り込んだ実質利回りとを切り分けて表示します。また稼働率の感応度分析も行えるため、売り手が提示する単一の予測リターンではなく、複数の稼働率想定に対してその案件がどう持ちこたえるかを見ることができます。

向いている使い方は、物件検討の初期段階で、表面利回りの数字を真剣に検討する価値があるかどうかを素早く概算したい場合です。ゼロからスプレッドシートを組むより数分で到達できます。向いていない使い方は、鑑定評価やローン審査プロセスの代替、あるいは自分の案件を精査する会計士や不動産アドバイザーの代わりとして使うことです。特定物件の状態や、特定の区の条例特有の事情、入力していない融資条件などは反映されません。出力結果は最終的な答えというより、次に確認すべき質問を洗い出すための出発点として扱ってください。

よくある質問

Q: 表面利回りと実質利回りの違いは何ですか?

表面利回りは年間収益を購入価格で割ったもので、運営コストを一切考慮していません。実質利回りはNOI(収益から運営コストを差し引いたもの)を、諸費用・税金・家具設置費用を含めた総取得コストで割ったもので、案件同士を実際に比較できる数字です。

Q: なぜ稼働率が価格よりも重要なのですか?

稼働率は毎月の売上に直接影響するため、小規模物件の試算では、稼働率の想定が10ポイント変動すると、購入価格を10%値引き交渉するよりも実際のリターンへの影響が大きくなる場合があるからです。

Q: Japan Invest は専門家によるデューデリジェンスの代わりになりますか?

なりません。物件の数字を素早く概算するための無料モデリングツールです。不動産鑑定士、会計士、不動産アドバイザーが自分の案件と融資条件を精査することの代わりにはなりません。

本記事は情報提供のみを目的としており、法律または税務に関する助言を構成するものではありません。個別の状況については専門家にご相談ください。