東京でゲストハウスを運営する個人事業主として2回目の確定申告を終えた数ヶ月後、税理士から届いたメールの件名を見てヒヤッとしたことがある。「税務調査の可能性について」。結局は正式な税務調査ではなく、簡易な行政指導で終わったのだが、そのおかげで税務調査が実際にはどういうものなのか、いざという時に何を用意しておくべきなのかを一通り調べることになった。

まとめ

  • 税務調査とは、提出した申告内容を実際の記録と照らし合わせて確認する手続き。実地調査は原則として事前通知のうえで行われるが、国税庁が特定のケースで事前通知なしに調査を行うこともある。
  • 国税庁は、様々な角度から資料情報を収集・分析し、AIを含むリスクベースの手法を用いて、インターネット取引やシェアリングエコノミー、無申告事案に重点的に取り組んでいるとしている——具体的な選定基準は公表されていない。
  • 調査官が主に求めるのは、申告内容と一致する領収書、預金通帳、OTA(予約サイト)からの入金明細。申告売上と実際の入金額のズレは確認しておくべき実務上のポイントではあるが、公式に確認された選定理由ではない。
  • 青色申告者は、帳簿や決算書類を7年間保存するのが一般的だが、一部の書類は5年保存のものもある。電子的に受け取った取引データは電子帳簿保存法に基づき保存する必要があり、検索要件には例外もある。
  • 調査の際に慌てないためには、普段からの習慣がすべてであり、実際に調査期間を短くするのはこの日頃の備えである。

税務調査は誰が選ばれるのか?

税務調査の対象になる小規模事業者のほとんどは、何か不正をしたから選ばれているわけではない。国税庁は、様々な角度から資料情報を収集・分析し、AIを含むリスクベースの手法を用いて、インターネット取引やシェアリングエコノミー、そして無申告事案に積極的に取り組んでいるとしている。すでに保有している銀行の利子情報や前年までの申告内容などとも照らし合わせている。該当する場合、民泊制度運営システムの登録情報や宿泊提供日数・宿泊者数などの定期報告情報が、国税庁などの関係機関に提供される仕組みもある。ただし国税庁は具体的な選定基準を公表していないため、以下は確認済みの選定理由ではなく、事業者自身が事前にチェックしておくとよい実務上のポイントとして捉えてほしい——前年からの数字の不自然な変動、掲載中の物件の予約状況と申告売上とのズレ、売上の伸びを伴わない経費の急増、申告漏れの期間があるかどうかなど。適格請求書発行事業者として新規登録したこと自体が調査対象になりやすいかどうかについても、国税庁が公表している情報はなく、確定した事実として扱うべきではない。

調査官は実際に何を見せるよう求めてくるのか?

調査官が求めるのは、確定申告の裏付けとなる領収書、請求書、預金通帳、そしてそれらをつなぐ帳簿で、これは申告時に提出した内容と同じものだ。ここで問題になりやすいのが、「申告した内容」と「実際に証明できる内容」の間にあるギャップである。本則課税のもとで消費税の仕入税額控除をフルに受けるには、一般に帳簿に加えて、発行者の登録番号が記載された適格請求書または簡易適格請求書の保存が必要になる。ただし例外もあり、公共交通機関や自動販売機からの購入など帳簿のみで足りるケースや、少額購入に関する経過措置、登録事業者でない相手からの仕入れについての経過措置(2026年9月30日までは80%、2026年10月1日から2029年9月30日までは50%の控除)などがある。登録番号のない領収書があるからといって即座に控除がすべて否認されるわけではないが、調査官がまず確認するポイントであることに変わりはない。また電子帳簿保存法では、メールで届いた請求書やPDFの領収書、OTAからの明細など電子的に受け取った書類は、印刷して保管すること自体は禁止されていないが、電子取引データそのものも別途保存する必要があり、原則として日付・金額・取引先で検索できる状態にしておくことが求められる。この検索要件にも例外があり、2024年以降は前々事業年度の売上高が5,000万円以下の事業者などについて検索機能のすべてが不要とされたほか、ダウンロードや印刷の求めに応じられる場合の猶予措置もある。紙の領収書はそのまま紙で保存しても問題ない。スキャンしたデータを原本の代わりにしたい場合は、別建てのスキャナ保存制度の対象になり、期限内の入力、画像や解像度の要件、検索機能や帳簿との相互関連性の確保、タイムスタンプの付与や訂正・削除履歴が残るシステムの利用といった改ざん防止のための仕組みが必要になる。国税庁のQ&Aでは、重要書類の通常の入力期間の上限を「最長で2か月とおおむね7営業日」としており、この期間を過ぎた場合は紙の原本を保存しておく必要がある。青色申告者は、仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿、決算書類、領収書や預金通帳といった現金・預金取引に関する書類を7年間保存するのが原則だ。一方、請求書、見積書、契約書、納品書、送り状といったその他の取引書類は5年保存でよいとされている。前々年の事業所得・不動産所得の合計が300万円以下であれば、現金・預金取引書類も5年保存で足りる場合がある。仕入税額控除のために保存する消費税のインボイスは、原則として7年間の保存が必要だ。多くの人が直感的に想定するよりも保存期間の区分は細かく、判断に迷う場合は税理士に確認するのが安全だろう。

ゲストハウス運営者は他のフリーランスとどう違う備えが必要か?

ゲストハウスや短期賃貸の運営者には、他の多くのフリーランスにはない突合の難しさがある。売上が複数のOTAから、それぞれ異なる入金サイクルで、しかも手数料が差し引かれた後の金額で入金されるという点だ。調査官が見たいのは預金への入金額だけではなく、予約ごとの総額、差し引かれたOTA手数料、そして実際の入金額が、それぞれの予約と結びついているかどうかである。入金された純額だけを「売上」として記録していると、実際に納める税額が同じであっても、売上と経費の両方を過少に記録しているように見えてしまい、印象として粗雑に映る。地味だが効果的な対策は、預金通帳単位ではなく予約単位で突合すること、そしてその売上から支出した費用(清掃費、リネン代、業者への支払いなど)の領収書を、対応するOTAの入金明細と一緒に保管しておくことだ。Reshitoのようなツールは、紙と電子データが入り混じった領収書から日付・支払先・金額・税率を検索しやすい形で管理する助けになる。ただし、それが法的な保存要件を満たしているかどうかは別の話であり、税理士に確認してほしい。

調査中・調査後には何が起こるのか?

実地の税務調査は原則として電話等で事前通知されますが、正確な事実把握や調査の適正な遂行に支障があると判断される場合は、事前通知なしで行われることがあります。多くの場合、この事前通知とあわせて対象期間の記録の提出依頼から始まる。自分自身、あるいは(強くお勧めするが)顧問税理士とともに調査官と向き合い、対象期間の記録を一緒に確認しながら、疑問点が出れば都度答えていく。すべてがきちんと整合していれば、通常はそれで終了する。整合しない場合は、追徴税に加えて延滞税がかかることがあり、明らかな過少申告があった場合には加算税が課されることもある。調査にかかる時間を左右する大きな要因の一つが、求められた書類をどれだけ早く提示できるかだ。すべての領収書が読みやすく、日付が明確で、予約ごとにインデックス化されている調査はスムーズに進むが、段ボール箱の中を掘り返すような状態ではそうはいかない。

よくある質問

Q: 小規模事業者が実際に税務調査を受ける可能性はどれくらいか?

非常に小規模な事業者への実地調査は比較的まれだが、特定の数字について説明を求める「お尋ね」などの簡易な接触ははるかに一般的だ。これは行政指導に位置づけられ、税務調査そのものとは異なるが、回答が疑問を解消できなければ本格的な調査に発展することもある。

Q: 税務調査には税理士が必要か?

法的に必須ではないが、OTAからの入金と付随的な収入など複数の収入源がある場合、調査に税理士が同席するのが一般的であり、対応を誤るリスクを考えれば、その費用に見合う価値があることが多い。

Q: 調査を受ける前にできる有効な備えの一つは何か?

1年に一度ではなく毎月記録を突合することだ。各OTAの入金を対応する予約と照合し、領収書をその都度インデックス化しておけば、いざ求められたときに記録を再構築する手間が少なくて済む。

本記事は情報提供を目的としたものであり、法律または税務に関する専門的な助言を構成するものではありません。個別の状況については、専門家にご相談ください。