物件購入時のことは誰もが熱心に語る。良い物件の見つけ方、融資の組み方、利回りの計算方法。しかし当社の経験では、「売却」について語られることは「購入」よりずっと少ない。これは見過ごせない問題だ。日本では、たった一つの数字——「何年所有していたか」——によって、売却時の税額が19ポイント以上も変わることがあるからだ。

自分たちの物件でこの計算を何度も行ってきたし、売却タイミングを検討しているオーナーの相談に乗ることもある。結論を先に言うと、出口戦略は投資計画の「おまけ」ではない。物件購入の初日からモデル化しておくべき変数だ。

まとめ

  • 日本の不動産売却益は給与所得などとは別枠で計算される申告分離課税であり、税率は売却する年の1月1日時点での所有期間で決まる。
  • 所有期間が5年以下なら短期譲渡所得として税率は約39.63%5年超なら長期譲渡所得として約20.315%——当社の経験上、譲渡益が大きい場合には、この境界線が小幅な価格交渉より大きく効くことがある。
  • 運営中に計上した建物の減価償却費は取得費から差し引かれる(土地は減価償却の対象外)ため、売却時の譲渡益を押し上げる。減価償却が進んだ物件ほど、市場価格の実感以上に「帳簿上の利益」が大きく見える。
  • 民泊の届出は事業者に紐づくものであり、物件そのものには紐づかない。買主は自分自身で新たに届出を行わなければ、その物件で民泊事業を運営できない。
  • 非居住者による売却の場合、決済時に源泉徴収が発生するケースが多く、売却代金として実際に手元に入る金額と確定申告時の精算額にはタイムラグが生じる。

「5年の壁」はどのタイミングで適用されるのか

本記事は、個人が投資用・固定資産として保有する土地建物を売却するケースを前提にしている。日本法人・外国法人・不動産販売業としての売却では課税関係が異なる。この壁は、売却する年の1月1日時点での所有期間によって決まり、実際の売買契約日ではない。日本の譲渡所得税は、所有期間5年以下の「短期譲渡所得」(国税・地方税合わせて約39.63%)と、5年超の「長期譲渡所得」(約20.315%)に分かれる。基準日が1月1日であるため、例えば2021年3月に購入した物件は、2026年3月に5年を経過しても、2026年中に売却する限り2026年1月1日時点では所有期間5年以下なので短期譲渡所得となる。長期譲渡所得になるのは2027年中の売却からだ。つまり、実質的な境界線はカレンダー上の「購入から5年」という単純計算よりも遅く訪れることが多い。

投資家として複数の売却シナリオを比較する際、当社の経験上、譲渡益が大きい場合には、この一つの境界線が、売却価格を数パーセント動かす交渉よりも大きな金額を動かすことがある。所有期間が5年前後に差しかかっているなら、売りに出す前に両方のシナリオを試算しておく価値がある。

減価償却は売却時の税額をどう変えるのか

土地は減価償却の対象ではなく、建物や償却対象設備の減価償却費相当額が譲渡益計算上の取得費を減らす、という点にまず注意したい。減価償却は運営期間中の税負担を下げてくれるが、売却時には取得費を減らすことで譲渡益を押し上げる方向に働く。運営中に賃貸収入や宿泊収入に対して計上した建物の減価償却費は、売却時の譲渡益を計算する際、取得価格から差し引かれる。建物の減価償却が進んだ物件は、実際の市場価値がほとんど変わっていなくても、税務上は大きな譲渡益が出ることがある。これは新たな値上がり益というより、すでに運営中に受け取った税制上のメリットの裏返しに過ぎない。日本の不動産投資の純利回りをモデル化する際にも意識している点だが、運営期間中の節税効果と売却時の税負担増は、同じ減価償却スケジュールの表と裏であり、切り離して考えると投資全体の収益を過大評価してしまう。

売却すると民泊の届出はどうなるのか

自動的に何かが起こるわけではない——民泊の届出は物件の登記ではなく、事業者本人に紐づいているためだ。買主が引き続き民泊として運営したい場合、運営開始前に、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等へ自分自身で新たに届出を行う必要があり、この手続きには時間がかかる。あわせて確認しておきたいのが、年間180日の残日数だ。この上限は届出住宅そのものに適用されるものであり、特定の事業者に紐づくものではないため、売主がすでに宿泊させた日数は買主にも引き継がれ、買主がその年に運営できる日数を狭めることになる。ここには実際のリスクがある。買主が「届出は自動的に引き継がれるだろう」と思い込んでいた場合、決済初日から合法的に営業できない物件、あるいは想定より運営可能日数が少ない物件を所有することになりかねない。売主としては、デューデリジェンスの段階でこの両方の点を明確に伝えておくことが、決済後のトラブルや評判の低下を防ぐことにつながる。

非居住者による売却では何が変わるのか

変わる点がある——日本の税務上「非居住者」に該当する場合、買主は決済時に売却代金の約10.21%を源泉徴収し、税務署へ納付する義務を負うのが原則だ。買主が個人で、自己または一定の親族の居住用として取得し、譲渡対価が1億円以下の場合は、原則として源泉徴収は不要という特例があるが、投資家に売却する民泊物件の場合、買主は居住目的で購入するわけではないため、通常この特例は適用されない。つまり、居住者の売主と比べて、決済時に手元に残る現金は少なくなり、差額は後日の確定申告で精算されることになる。

民泊届出済み物件は、買い手の層にどう影響するのか

民泊として実際に運営中の物件は、実需(自己居住目的)の買主よりも投資家の買主を惹きつけやすく、その分だけ買い手の層が狭まり、成約までの期間が長くなることがある。実需の買主が求めているのは「住む家」であり、OTAのレビュー評価や運営履歴、そして引き継げない届出がセットになった収益物件を求めているわけではない。そのため、現実的な買い手層は、利回りの計算や届出の引き継ぎ問題を理解している投資家に偏りがちだ。これは必ずしも悪いことではない——収支が明確で稼働実績が証明できる物件であれば、投資家の買主はむしろ意思決定が早いことも多い。ただし、販促資料は一般的な居住用物件の広告というより、直近の収益実績・経費内訳・稼働データを揃えた「小規模事業の売却案件」に近い形で用意する必要がある。

よくある質問

Q: 「5年」の所有期間は購入日から数えるのですか、それとも売却日からですか?

どちらでもなく、売却する年の1月1日時点での所有期間で判定される。そのため、単純に「購入日から5年」と考えるより、実質的な境界線が遅く訪れることがある——上の例のように、その年のうちに5年目の節目を迎えていても、翌年の1月1日を過ぎるまでは短期譲渡所得のままとなる。

Q: 民泊の届出は売却時に買主へ引き継げますか?

引き継げない。民泊の届出は物件ではなく事業者に紐づいているため、買主は自分名義で新たに届出を行う必要がある。一方、年間180日の上限については届出住宅そのものに適用されるため、売主が使った日数は買主に引き継がれる。買主が決済直後から合法的に営業でき、かつ想定より運営可能日数が少ないという事態を避けられるよう、この両方をあらかじめ決済スケジュールに組み込んでおくことが望ましい。

Q: 減価償却費は、同じ価値に対して二重に課税されることになりませんか?

そうとは言い切れない。運営中に減価償却費を計上した年は、実際に税負担の軽減という恩恵を受けている。売却時に取得費が減るのは、その恩恵を最終的な譲渡益の計算に反映させる仕組みだ。ただし、累積の減価償却額を市場価値の見積もりと合わせて把握していないと、想定より大きな税負担に驚くことになりかねない。

本記事は情報提供のみを目的としており、法律または税務上の助言を構成するものではありません。個別の状況については、専門家にご相談ください。