運営中のゲストハウスを買うとき、売主の数字をどう検証するか
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数週間に一度、「居抜き・利回り12%・予約満室」といった運営中ゲストハウスの売り物件を誰かから送ってもらいます。魅力的に見えるのはよくわかります。家具の手配は済んでいて、レビューゼロの最初のシーズンも終わっていて、初日から収入が入ってくるわけですから。法令に適合した設備をそのまま引き継げることもあります。ただし、営業する権利は別に確認が必要です。住宅宿泊事業は運営者が変わると通常は新たな届出が必要です。旅館業は、事業譲渡について事前に承認を受けて初めて許可上の地位を承継できます。そして見出しに書かれている数字は、ほぼ毎回その物件の実績を最も好意的に読んだものです。
この記事では、売主の数字を信じる前に僕が何を確認しているかをまとめます。買うべきかどうかの話ではありません。パンフレットの中の事業ではなく、実際の事業を見ているかを確かめるための話です。
まとめ
- 運営中ゲストハウスの売り物件で出てくるのは、たいてい表面利回り(年間売上÷価格)です。僕が収支を見るときは、借入返済の前に売上の30〜50%が運営コストで消えるケースも試算することが多いので、比較するなら実質利回りで。
- 売主が作ったスプレッドシートではなく、OTAの入金レポートと銀行取引明細をもらいましょう。デューデリジェンスでは、OTAの入金レポート、銀行への入金、現金の受領記録、提出済みの税務申告のいずれかと照合できない売上は数字に含めないでください。
- 価格より稼働率のほうが効くことがあります。 稼働率が10ポイント下がる場合と価格を10%下げる場合の感応度を比べてみてください。固定費の比重が大きいと、稼働率の影響のほうが大きくなりえます。
- 売買で引き継げないもの(売主のホストアカウントに紐づくレビュー、売主名義の許可・届出など)を洗い出し、立て直しにかかる期間を収支計画に入れておきましょう。
- ピークの四半期ではなく12か月分のデータを見ること。季節変動の大きい日本では、好調な春が弱い冬を隠してしまいます。
なぜ広告の利回りを信用できないのか?
ほとんどの場合それが表面利回りで、小規模な宿泊施設が儲かるかどうかを左右するコストが入っていないからです。表面利回りは年間売上を購入価格で割っただけの数字です。OTA手数料、ゲストが入れ替わるたびの清掃費、水道光熱費、消耗品、消防法令への対応費用、管理を外注した場合の管理委託料、固定資産税、そして思ったより早く必要になる修繕積立が抜けています。
物件同士を比べられるのは実質利回り、つまりNOI(純営業収益)を総取得コストで割った数字です。総取得コストは、物件価格に仲介手数料、登記費用や不動産取得税、必要な家具・改修費用を足したものです。表面12%で売り出されている物件でも、この基準で計算すると一桁台に落ち着くことはよくあります。それで即見送りになるとは限りませんが、まったく別の案件として見る必要があります。
このギャップを見える化するために作ったのがjapan-investです。表面の数字とコスト項目を入力すると、見出しの利回りがどこまで下がるかがわかります。スプレッドシートでも同じことはできます。大事なのは、交渉を始める前にこの計算を済ませておくことです。
売主にどんな資料を求めるべきか?
売主がまとめた要約ではなく、お金が実際に入ってきた証拠を求めてください。僕が依頼しているのは次のとおりです。
- 各OTA(Airbnb、Booking.comなど)の過去12〜24か月分の入金レポート:手数料を引いた後の入金額、つまり実際に口座に入る金額がわかります。
- 同じ期間の事業用口座の取引明細:入金レポートと実際の入金を突き合わせるためです。
- 清掃・リネンの請求書:清掃は入れ替えごとに発生するので、実際の宿泊件数のおおまかな検証材料にもなります。
- 水道光熱費の請求書:高稼働だと言っているのに電気や水道の使用量が横ばいなら、聞いてみる価値があります。
- 宿泊税の申告書(宿泊税を課している自治体の場合):宿泊税は都道府県が課す場合も市区町村が課す場合もあり、対象になるかどうかは施設の種類や施行日によって変わります。たとえば東京都は2027年4月1日から簡易宿所と民泊を宿泊税の対象に加えます。大阪府ではすでに、ホテル・旅館、簡易宿所、特区民泊、住宅宿泊事業がすべて対象です。
- 誰が徴収するか:宿泊税は、OTAや旅行会社経由の支払いに含まれている場合も、含まれていない場合もあります。ゲストへの請求額、OTAの入金額、毎月の宿泊税申告を突き合わせ、地域のルールで誰が納めることになっているかを確認してください。
- 申告書でわかること:申告書は宿泊数を裏付けるもう一つの独立した記録です。売主がきちんと申告してきたかもわかります。
- 課税の対象になる金額:条例上の「1人1泊あたりの宿泊料金」が何を含むかを確認してください。たとえば京都市の現行ルールでは清掃料やサービス料を含み、食事代や消費税は含みません。東京都の改正後のQ&Aでも、必須の清掃料は含まれるとされています。ここを取り違えると、税額の区分を誤ることになります。
- 許認可関係の書類:住宅宿泊事業の届出や旅館業許可の書類、それに消防関係の書類。
最初の2つを出し渋る売主なら、それ自体が一つの情報です。
稼働率の主張をどうクロスチェックするか?
売主が自分で書いたものではない資料で、主張されている宿泊数を確かめます。入金レポート、清掃の請求書、光熱費の使用量、宿泊税の申告は、だいたい同じ話をしているはずです。稼働率85%と言うなら、平均滞在日数から考えて、それに見合う回数の清掃が入っているはずです。
住宅宿泊事業(民泊)として運営されている物件なら、まず年間180日の上限と、自治体の条例による制限を当てはめてください。暦日ベースの稼働率と、営業できる日数のうち何日使ったかは分けて管理します。暦日ベースの稼働率が約49%を大きく超えるなら、旅館業許可など別の法的根拠が必要です。民泊物件で「稼働率85%」と言われたら、分母が営業可能日数だけなのか、それとも法令上の問題を抱えているのかのどちらかです。
僕がいちばん慎重に見るのは稼働率です。僕の試算では、リターンを最も大きく動かすのがたいていここだからです。稼働率が10ポイント下がる場合と、購入価格を10%下げる場合の感応度を比べてみてください。固定費の比重が大きいと、稼働率の影響のほうが大きくなりえます。値下げに応じてくれても稼働率を盛っている売主から買えば、結局は割高な買い物になりかねません。
特に注意しているパターンが2つあります。
- 好調な一年が実はひとつの季節だけ。 桜と紅葉の時期に満室だった京都の物件は、年換算するととても良く見えます。売主の数字がピークの四半期分しかないなら、1年分を出してもらいましょう。
- 安値で支えた稼働率。 近隣の同等物件より低い1泊料金で稼働率を上げている場合、自分のコストをまかなうために値上げしたとたん、その稼働率は維持できないかもしれません。稼働率とADR(平均客室単価)はセットで見てください。
売買で引き継げないものは何か?
運営中のゲストハウスの価値の多くは、物件ではなく売主に帰属しています。それを立て直すコストを価格に織り込む必要があります。
- レビューと掲載実績。 OTAの掲載は通常ホストのアカウントに紐づいています。物件を引き継いでも、レビュー件数や検索順位につながる評価がついてくるとは限りません。新規掲載は立ち上がりが遅いことが多いので、最初の数か月の見通しにはそれを反映させましょう。
- 許認可。 住宅宿泊事業の届出や旅館業許可は運営者に紐づいています。住宅宿泊事業では、運営者が変わると通常は売主が廃業し、買主が新たに届出をします。旅館業では、事業譲渡について事前に承認を受けた場合に限り、許可上の地位を承継できます。詳細は所管の自治体に確認してください。手続きが終わるまで予約は取れないので、その期間をスケジュールに入れておきましょう。
- 仕組みと取引先。 売主の清掃業者、リネン業者、サイトコントローラーのアカウントが引き継げるとは限りません。できればクロージングの前に清掃チームと話しておきましょう。
- 近隣との関係。 苦情があったかどうかは直接聞いてください。マンションなら管理規約も読みましょう。騒音苦情の履歴は、スプレッドシートには出てこなくても事業にとって現実のリスクです。
購入直後にどんな予算を見ておくべきか?
1年目に何かしらお金がかかる前提でいてください。実際、必ず何かあります。稼働の多いゲストハウスの給湯器、エアコン、洗濯機は、普通の住宅より早く傷みます。それぞれ何年使っているかを聞きましょう。最近のレビューで「シャワーがぬるかった」「エアコンがうるさかった」のような指摘が繰り返されていないかも見てください。それは売主がまだ払っていない修繕費です。
デューデリジェンスの段階で修繕の見積もりを取るなら、項目ごとに比べてください。日本の見積書は「諸経費」に多くがまとめられていることがあり、何か所も直す見積もりを並べると、その差はすぐに大きくなります。
よくある質問
Q: 表面利回りが役に立つ場面はありますか?
ざっと最初にふるいにかけて、コストを引く前の時点ですでに成り立たない物件を外すのには使えます。ただ、運営コストは物件によって大きく違うので、表面利回りだけで2つの物件を比べたり買付を入れたりするのはやめましょう。
Q: 何か月分のデータを求めればいいですか?
最低12か月、できれば24か月です。日本の需要は季節による波が大きい(桜、ゴールデンウィーク、夏、紅葉、年末年始)ので、1年に満たないデータだと実態がゆがんで見えることがあります。
Q: 売主のAirbnbの掲載とレビューを引き継げますか?
期待しないほうがいいです。掲載とレビューは基本的にホストのアカウントに紐づいていて、プラットフォームの規約も関わってきます。自分のアカウントで立ち上がりが遅くなる前提で計画し、引き継げた実績があればおまけと考えてください。
本記事は情報提供のみを目的としたものであり、法律上または税務上の助言を構成するものではありません。個別の状況については、専門家にご相談ください。
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